
米どころとして知られる新潟県上越市は、日本酒づくりでも名高い地域です。市内には10を超える酒蔵が軒を連ね、良質な米と水に加え、受け継がれてきた高い醸造技術が、ここならではの味わいを生み出してきました。三大杜氏のひとつ「越後杜氏」の中でも、上越に根を下ろす「頸城(くびき)杜氏」は全国的にも高い評価を得ています。また、「酒博士」と称された世界的な微生物学者・坂口謹一郎氏の出身地でもあり、その知見は今も地元の酒づくりに息づいています。
今回は、ふるさと納税のお酒のお礼品に詳しいお酒の専門家 (株)蔵楽 代表取締役 髙橋 理人(たかはし まさと)さんに上越市の日本酒について解説いただきながら、その魅力とおすすめの銘柄をご紹介します。
専門家プロフィール
髙橋 理人(たかはし まさと)- (株)蔵楽 代表取締役
早稲田大学商学部を卒業後、大手化学メーカーに新卒入社。社会人初の赴任地である新潟県糸魚川市にて日本酒に開眼。その後、大手コンサルティングファームにて製造業の業務・経営改革に従事。コロナ禍を契機に、2020年10月に株式会社蔵楽(くらく)を創業。「酒蔵を世界一働きたい場所に」をビジョンとして、東南アジア向けの輸出、日本酒サブスク「TAMESHU(タメシュ)」の他、酒蔵のプロデュースや酒イベントの企画など幅広い事業を行っている。座右の銘は「一周回って本醸造」。J.S.A.認定SAKE DIPLOMA、ワインエキスパート、SSI認定国際唎酒師などを取得。著書「酒ビジネス」。
『日本の酒の聖地』上越 ~多彩な個性が光る味わい豊かな日本酒~
上越市は酒づくりに恵まれた地域で『日本の酒の聖地』と言っても過言ではありません。
上越市は、私も愛読し、現代にも通ずる内容が書かれた名著「日本の酒」を記した坂口謹一郎氏の出身地です。そして、越後杜氏の中でも三大・四大といわれる『頸城杜氏』の里であり、『日本のワインの父』とも言われる川上善兵衛氏も輩出。さらには、新潟県の中でも一際雪深い地域であり、酒造りに欠かせない水と自然条件が揃っています。
市内には10を超える蔵が点在し、それぞれが独自のスタイルで酒造りを行っています。酒蔵ごとの日本酒の飲み比べや、料理と一緒に合わせることで、上越にしかない日本酒と地域の魅力を一層楽しむことができます。
『新潟の日本酒』と聞くと、さっぱりとしてキリっとした『淡麗辛口』のイメージが強いと思います。一方で、上越市の日本酒は濃厚で旨味のあるタイプや、ふくよかな甘みを感じるタイプなど、新潟の日本酒のイメージと異なる個性を持っているものも見受けられます。
この様々な個性を楽しめる点は日本酒好きにはたまりません。日本酒の良さを最大限に引き出せる点が、上越市の最大の魅力です。
試飲と蔵見学の様子
髙橋さんには、上越市内の酒蔵を回って、お酒を試飲いただきました。今回は、その様子を元に、髙橋さんおすすめの日本酒をご紹介します。
上越の土地をまるごと味わえる頚城酒造
「まずは田んぼを見に行こう」。
そう語る頚城酒造は、使う米のすべてを地元・柿崎産の契約栽培米を使っています。
「うちのお酒の顔は、蔵人でも杜氏でもなく、田んぼ」と蔵元は語ります。
頚城酒造がある上越市柿崎区は、米・水・土壌、どれをとっても恵まれた土地です。そこで生まれるお酒には、不思議と自然のぬくもりや海と山の風を感じるような清々しさを感じます。
◇ 八恵久比岐 空 大吟醸
専門家コメント
口にした瞬間、スッとお米の旨みと香りが駆け抜けます。そして雑味やクセが一切感じられない透明感あふれる味わいは、柿崎の青空を思わせるような爽快感があります。地元・柿崎で契約栽培された「山田錦」100%使用しています。
◇ 八恵久比岐 風 大吟醸
専門家コメント
口に含めば、上品な香りとホクホクとしたお米のやさしい旨味が広がり、ふっと吹き抜ける風のように、やさしくも爽やかな味わいです。そよそよと残る余韻も心地よいです。
柿崎の"風"を再現したような一本です。
地元・柿崎で契約栽培された「越淡麗」を100%使用。
◇ 越路乃紅梅 純米吟醸
専門家コメント
美しくシャープな酸味が特徴で、料理に寄り添いながらも、その味わいをしっかりと引き立ててくれます。晩酌のお供として、いつも手元に置いておきたくなるような一本です。
頚城酒造が大切にしている「食に合う地酒」という想いを、ストレートに体現しています。
使用しているのは、新潟県では珍しい八反錦2号。地元・柿崎で契約栽培された酒米を100%使っています。
「能ある鷹は爪を隠す」を体現する田中酒造
えちごトキめき鉄道「谷浜駅」から徒歩十数秒、日本海が目の前にある、全国的にも珍しいロケーションにある酒蔵です。
仕込み水には、裏山の横井戸から湧く天然水を使用しており、毎年の仕込み前には蔵人全員で清掃に赴くほど、能鷹の味を決定づける大切な水です。
近年は、お客様の利便性を考慮し、ラベルの書体を統一。酒の種類ごとに色分けを施すなど、視認性にも配慮しています。
創業は1643年、約380年の歴史を誇ります。代表銘柄「能鷹」は、田中家の屋号「能登屋」と、"能ある鷹は爪を隠す"という格言に由来。まさに、表に出ない陰の努力を重ねながら、地元に根ざした酒造りを続けている蔵です。
◆ 純米大吟醸
専門家コメント
澄んだ味わいの中に、しっかりとお米の旨味が感じられます。舌触りはシルクのような艶やかで心地よく、ほっとするような柔らかい余韻が印象的です。茶わん蒸しや煮物など、出汁の効いた料理と合わせて飲みたいです。
新潟県限定の「越淡麗」を50%磨いた、贅沢な純米大吟醸です。
◆ 吟醸酒
専門家コメント
香りは、凛として澄んでいます。口に含むと、風が駆け抜けたような爽やかさを感じながらも、最後はキュッと引き締まる軽快なお酒です。冷ややっこやイカのお刺身など、さっぱりとした料理との相性が良いです。
飲む前にしっかりと冷蔵庫に冷やしてからお飲みください。ロックで飲むのもおすすめです。
◆ 純米酒
専門家コメント
香りはジューシーなマスカット。豊潤な味わいが途中まで膨らみますが、最後はしっかりと辛く引き締まり、すっきり飲めます。スナップエンドウやアスパラなど、青々しい食材との相性が良いです。
冷酒だけではなく常温でも美味しく飲めます。
◆ 特別本醸造
専門家コメント
香りは穏やかで、クセが無くさらさらと飲むことができます。余韻も短くキレがあり、次のもう一口を促してくれます。あらゆる料理との合わせやすく、鶏のから揚げや天ぷらなど揚げ物とも美味しくいただけます。冷酒から燗酒まで幅広い温度帯で楽しむことができます。
精米歩合55%、このクラスのお酒としては珍しいほど、贅沢にお米を磨いています。
◆ ペンぎんなま
専門家コメント
上越市立の水族博物館「うみがたり」は、マゼランペンギンの飼育数が日本一。そんなペンギンと吟醸生貯(通称、ぎんなま)がコラボレーションをした「ペンぎんなま」です。
熱い夏に海辺でゴクッと喉を鳴らしたくなるような、飲みごたえ十分な日本酒です。お酒とグラスをギンギンに冷やして飲みたいです。ペンギン好きな方へのギフトにもぜひ。
